#CASE 15網膜疾患

01網膜疾患とは?

網膜疾患とは、様々な要因によって網膜の毛細血管が切れて出血したり剥がれたりして栄養が行き渡らなくなり、光に対する感度が鈍くなっていくことを指します。
その結果、目が見えにくくなったり、視界が欠けたりするなどの障害を引き起こします。
普段は両目でモノを見ているため、視野の異常に気付かず、症状が進行してから自覚することも少なくありません。網膜疾患はさまざまな病気のことをさします。のちほど主要な疾患を紹介していきます。

そもそも網膜とは?

網膜(網膜)とはカメラでいうフィルムの役割を果たしている目の一番奥に広がっている膜のことを指します。厚さは中央部で0.3〜0.4mm程度と極めて薄い膜です。外界から入った光を電気信号に変換し、脳に伝達することで、モノが見える状態になり、ヒトは視覚として映像を見ることができます。
網膜の構成は多くの動脈や静脈から形成されており、血管と神経が含まれています。網膜は、光や色を感じる働きを持つ「視細胞」と、それにつながる「神経線維」からできています。
さらに、網膜の中心部分にあって視野の中心を担う場所を黄斑部(おうはんぶ)と呼んで区別しています。色素の影響で黄色く見えることが、黄斑部という名前の由来となっています。

02網膜疾患の具体例「網膜裂孔」について

網膜裂孔(もうまくれっこう)とは?

網膜裂孔とは、眼底(眼球の奥)の内壁を覆っている網膜(カメラのフィルムの役割)に裂け目や孔(あな)が生じる病気のことを指します。
通常、裂孔が生じただけの段階では視力にまで影響が及ぶことはほとんどありませんが、放置すると眼球内部を満たす硝子体(しょうしたい)の水分が裂孔から網膜の裏側へと侵入し、網膜を内壁から浮き上がらせて剥がしてしまう網膜剥離へと発展する場合があります。
この病気の難しい点は自覚症状がないことが多いことです。網膜裂孔の段階では気づかず、網膜剥離へと発展した段階でわかることが多いためです。
網膜剥離は視野欠損や視力低下を引き起こし、場合によっては失明に至ることもある病気で、治療のためには決して簡単ではない手術が必要になります。
そのため、網膜裂孔の段階で発見して、それ以上の進行を阻止することが大切です。発見するためには定期的な検査や診療が必要になります。

網膜裂孔の治療方法は?

光凝固術レーザー治療

網膜にできた裂け目を塞ぐ処置にはレーザーによる「光凝固法」があります。
網膜裂孔の場合に、治療の適応となるケースが多いです。網膜剥離の場合は進行していない限り有効です。
瞳孔から網膜の穴にレーザーを照射し、焼き付けます。この処置をすると、裂け目の周囲の網膜とその下の組織がくっつくため、網膜が剥がれにくくなります。レーザー照射した箇所の細胞は死滅します。そのため、影響がない箇所でのみ使用されます。また、進行を食い止める治療となるため、すでに視野が失われている場合は回復はしません。

硝子体手術(しょうしたいしゅじゅつ)

硝子体は眼球内にあるゼリーのような柔らかい組織で、眼球内の約8割を占めています。硝子体手術とは、網膜剥離を目の内側から治す方法です。
手術は通常、局所麻酔で実施され、眼球周囲に注射を行います。
眼球の白目に3~4カ所の小さな穴(約0.5㎜)を開け、細い器具を眼内に入れて操作する非常に繊細な手術になります。
硝子体を除去しても眼内は水に置き換わるので眼球が凹んだりはしません。
必要がなければ、そのままで手術は終わりますが、病状によっては網膜を押さえたり、穴を塞ぐ目的として、眼内に空気・ガス・オイル等を入れたりすることがあります。
この場合、術後数日~1週間程度は、日中も夜間もうつぶせによる安静を続ける必要があります。空気やガスは術後1~3週間程度で眼内の水に全て吸収されますが、オイルは数か月後に除去するための追加手術を行う必要があります。
通常、硝子体手術後の視力回復には、ある程度の期間(場合によっては数力月)が必要です。また、年齢に応じてですが、硝子体手術の多くは水晶体再建術(白内障手術)を同時に行います。

03網膜疾患の具体例
「網膜剥離」について

網膜剥離とは?

網膜剥離とは、網膜が眼底(眼球の奥)の内壁から剥がれることで起きる疾患です。
網膜(カメラのフィルムの役割)の機能は外からの光を受け取り、色や形といった視覚情報に変換し、それを脳に送る役割を持つ組織です。
その網膜が眼底から剥がれることで、眼底の毛細血管から酸素や栄養を補給することができなくなり、網膜が剥がれた部分からだんだんと死滅していきます。
それに伴い網膜の持つ機能も低下していくことで、視野欠損や視力低下といった障害が発生し、さらに放置すれば失明に至ることもあります。
網膜の死滅した部分は元に戻すことができず、症状が進行するほど治療も困難になるため、網膜剥離は早期発見と早期治療が重要な病気とされています。
網膜剥離は加齢や糖尿病網膜症、外傷などさまざまな原因で引き起こされます。いずれの場合も網膜裂孔ができることが初期段階です。網膜裂孔がきっかけで網膜剥離に発展していくため、なにかしらの変化を感じた場合は速やかに医師の診断を受けることが必要です。

網膜剥離の治療方法は?

強膜バックリング術(網膜復位術)

強膜(きょうまく)とは、眼球の一番外側にある、「白目」の部分を指します。
強膜バックリングとは、裂孔部分を眼球の外側から治療する方法です。
網膜裂孔と眼球壁との距離を近づけるために、強膜を内側にへこむように、シリコンで出来たバンドを強膜に縫い付けます。眼球を内側にへこませることで、網膜色素上皮と剥がれた網膜を近づけ接着させます。シリコンバンドは外側から押さえつけるイメージです。
また、穴の周りを白目の上から冷凍凝固や、白目に小さな穴をあけて溜まった水分を抜くなどの処置を追加することもあります。ほとんどの場合局所麻酔で行うことが可能で、眼球表面の形は手術前と同じく丸いままですので、違和感はほとんどありません。また、硝子体手術と異なり、手術後うつ伏せの姿勢を取る必要はほとんどありません。

04網膜疾患の具体例
「加齢黄斑変性症」について

加齢黄斑変性症とは?

加齢黄斑変性は、網膜(カメラのフィルムにあたる組織)の黄斑(おうはん)というところに異常な老化現象が起こり、視機能(視力や視野)が低下していく病気です。
黄斑は網膜のほぼ中央にあり、ほかの部分の網膜に比べて視機能が格段によく、モノを見る要の部分にあたります。
文字を読むとき、読み取る文字は常に視野の中央の黄斑で読まれていて、そこから数文字でも外れたところにある文字は、相当読みづらいものです。

加齢黄斑変性症の治療法とは?

萎縮型の治療

加齢黄斑変性と診断されても、萎縮型だった場合は治療は必要ありません。ただし今後「滲出型」に移行することがあります。日本人の発症の多くが「滲出型」といわれています。視力の低下が急に進行した場合に、見落とさないように定期的な検診が必要です。

滲出型(しんしゅつがた)の治療

『抗VEGF療法』と呼ばれる最新の治療法が一般的です。現在、滲出性の加齢黄斑変性症に対する最も効果的な治療だと言われています。抗VEGF剤硝子体注射によってVEGF(血管内皮増殖因子)の働きを抑制し、新生血管を弱らせ、悪い変化が進行するのを防ぎます。
VEGFというのは、血管の発生や血管の維持においてとても重要な「血管内皮細胞増殖因子」というたんぱく質のことです。正常な環境では血管を助けるために働いていますが、病気の環境ではむくみや炎症、出血など悪い変化を起こす新生血管を生成するように作用します。

05網膜疾患の具体例
「糖尿病網膜症」について

糖尿病網膜症とは?

糖尿病網膜症は、糖尿病腎症・神経症とともに糖尿病の3大合併症のひとつで、我が国では成人の失明原因の第一位となっています。糖尿病では動脈硬化を発症している患者様が多いです。
眼の一番奥、眼底には網膜という神経の膜があり、多くの毛細血管が集まっています。糖尿病の患者様の血液は、血糖が多く固まりやすく、脆い状態になっているため、網膜の毛細血管を詰まらせたり、血管の壁に負担をかけて、眼底出血が起こったりします。
そのため、血液の流れが悪くなり、網膜に酸素や栄養素が不足し、これが糖尿病網膜症の原因となります。進行した場合には、硝子体で大出血が起こり、失明に至る場合もあります。
糖尿病網膜症は、糖尿病になってから数年から10年以上経過して発症すると言われていますが、かなり進行するまで自覚症状がない場合もあり、まだ見えるから大丈夫という自己判断は危険です。そのため、定期的な受診を行っていく必要があります。見えなくなってからでは手遅れです。

糖尿病網膜症の治療法は?

糖尿病網膜症の治療目的は、網膜症の進行を予防することです。
主な治療方法は、以下の3つがあげられます。病気や眼の状態に応じて、これらの治療を行っていきます。

レーザー治療(網膜光凝固術)

レーザー治療(網膜光凝固術)は、網膜にレーザーを照射することにより、新生血管の発生を防ぐ治療法です。網膜血管の血流が悪く虚血状態に陥ると、新生血管が伸びてきます。新生血管は、正常な血管ではないため出血を起こしやすく、網膜にさまざまな悪影響を与えます。
そこでレーザー治療を行うことで、新生血管の発生を未然に防ぎ、血流が悪くなることや血流が止めることを防ぎます。レーザーの照射時間は15分ほどで完結でき、日帰りで行えるケースもあります。ただし、網膜の状態によっては1回で終わらず、複数回の照射が必要な場合もあります。

抗VEGF療法

抗VEGF療法とは、抗VEGF薬を眼球内に注射することにより、新生血管の発生や増殖を抑える治療法です。網膜のなかでも視力に関わる黄斑部分が浮腫(むく)んでしまう黄斑浮腫は、深刻な視力低下を起こします。黄斑浮腫は新生血管によって起こり、その原因はVEGE(血管内皮増殖因子)と呼ばれるタンパク質にあるといわれています。医師が診察や検査で様子を見ながら、定期的に注射を行います。

硝子体手術(詳しくは 02 の硝子体手術で解説)

硝子体手術とは、糖尿病網膜症が進行すると硝子体出血や網膜剥離などが起こった場合、手術によって出血を取り除いたり剥がれた網膜を元に戻したりすることで、視機能の回復を目指す手術です。硝子体手術は眼科治療において、高度な技術が必要な手術のひとつです。

06網膜疾患の治療において大事なこと

一言で網膜疾患といっても、さまざまな症例があり、それぞれの治療方法があることがわかったと思います。続けて、治療において大事なことを紹介していきます。

発症間もない状態であれば治療が可能

幸いにも早期発見できたときには、しっかりと経過観察し、治療を行い、対処するようにしましょう。知らずしらずのうちに進行する病気が多いため、自覚症状が出て気づいたときには、回復が難しい状態まで進行していることが多いです。一度、死んでしまった細胞や失われた視界は元に戻ることはありません。
そのため、症状の発症から間もない状態で、損傷している網膜の範囲も小さい場合は、手術で比較的簡単に、見え方も元通りに回復する可能性が高いと言えます。
一方で放置したり、時間経過したりした疾患については治療が困難となるケースも多いため注意が必要です。

とにかく早期発見と早期治療が重要

網膜に関する治療は早く治療できるほど視力への影響を少なくすることができるため、早期の発見・治療が重要となります。
見え方の違和感や目の痛みを感じることがあれば、速やかに眼科を受診し、検査を受けることをおすすめします。適切な治療が視力の維持につながります。
また、40代以上の方は1年に1回は定期的な医師の診察を受けることをおすすめしています。網膜疾患もですが、眼の疾患は老化が関わることが多く、発症のタイミングは高齢になればなるほど確率が上がっていきます。さまざまな症例も40代から徐々に出てくるため、1年に1回定期検査に行くことで安心できます。まずはかかりつけ医を見つけることからスタートしましょう。
当クリニックは網膜疾患、糖尿病の眼の合併症、結膜炎、白内障、緑内障、麦粒腫・霰粒腫などの治療をしており、手術においても硝子体内注射、レーザー治療、白内障手術、硝子体手術、まぶた手術を行っています。
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